敷金返還についての裁判所の判断

消費者契約法、原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省住宅局)、賃貸住宅紛争防止条例(東京ルール)などを背景に以下の様な入居者側に有利な判決が次々と出ています。 敷金返還についての裁判所の判断

■通常損耗に伴う費用は家賃に含め回収されており、又特約を成立させる為の要件を具備していない。(最高裁判所判決)

平成16年(受)第1573号最高裁判所第二小法廷
平成17年12月16日判決

●入居者(上告人)の主張
通常損耗の修繕費用を賃借人に負担させる本件特約は、合理性、必要性はなく、又具体的な説明もなかった為、無効である。

●貸主(被上告人)の主張
入居者に賃貸するにあたっては、必ず入居説明会の開催、諸資料の配付と共に、本件負担区分の内容についても十分な説明を行っている。更に必要書類を一旦自宅に持ち帰ってもらい、説明会から十分な日にちを空け、正式に本件賃貸借契約の締結を行っているので、原告が契約内容を理解しないまま本件賃貸借契約を締結するということはあり得ず、原告と被告との間では、本件負担区分に基づく修繕費負担特約が成立している。

◎裁判所の判断
通常損耗の費用は家賃に含め回収されており、この原則に反してこれらの修繕費用を賃借人に負担させる特約は、家賃の二重払いを強いるものであり、賃借人には不利益な特約と言える。この「原状回復特約」が成立するためには、
@ 客観的理由の存在が必要
A 特約による修繕義務を負うことを認識していること
B 義務負担の意思表示をしていること
以上の要件を具備し、自由意思に基づき契約をしたことが必要であり、本件修繕費負担区分表については、「通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえない」などとし、通常損耗の範囲が条項自体に具体的に明記されておらず、入居者説明会における口頭説明についても、「通常損耗補修特約の内容を明らかにする説明はなかった」として、賃借人が特約を明確に認識し、合意の内容としたとは認められないと判断した。

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■ハウスクリーニング特約は消費者契約法10条により無効

平成21年(少コ)第46号 さいたま簡易裁判所
平成21年9月8日判決

●入居者(原告)の主張
ハウスクリーニング特約は消費者契約法10条により無効であるから未返還敷金等263,029円の返還を求める。

●貸主(被告)の主張
本件建物に関する賃貸借契約において金額を明記した特約により、ハウスクリーニング費用は原告の負担である。

◎裁判所の判断
原告及び被告間の本件賃貸借契約には消費者契約法の適用があると解されるところ、ハウスクリーニング費用を借主の負担とする特約は、民法の任意規定の適用による場合に比べ、消費者である賃借人の義務を加重する特約であり、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害する条項であることは明らかであるから、消費者契約法10条により無効と解するべきである。

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■畳表替え、襖張替及びハウスクリーニング特約無効

平成21年(少コ)第21号 木更津簡易裁判所
平成20年6月26日判決

●入居者(原告)の主張
退室補修費119,715円のうち、原告の負担すべき金額は34,034円である。

●貸主(被告)の主張
賃貸借契約にあたり、畳表替、襖張替及びハウスクリーニング費用は原告が負担すべき特約があるので、請求金額は妥当である。

◎裁判所の判断
被告主張の特約は、賃借人の故意、過失を問わず畳表替等の費用を賃借人に負担させ、明渡時の清掃義務を超える、およそ一般人ではなしえない業者清掃の費用を負担させるもので、賃借人に一方的に不利益となることから、前記の特約は消費者契約法10条により無効である。証拠及び弁論の全趣旨によると、原告が負担すべき補修費用は原告が自認する34,034円に限られる。

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■室内クリーニング費用等は賃料に含まれているものである。

平成19年(少コ)第2303号 東京簡易裁判所
平成19年10月25日判決

●入居者(原告)の主張
原告の負担すべき金額は残置処分費1,575円のみであるので、未返還敷金121,604円の返還を求める。

●貸主(被告)の主張
本件特約に「乙は本物件を甲に明け渡すときは「別表4」に基づき、甲及び甲の代理人の査定により、床・壁・天井・建具等の原状回復と室内クリーニングを行わなければなりません。」と規定されているので、返還すべき敷金はない。

◎裁判所の判断
賃借人は貸室を明け渡す際に、通常の清掃をして明け渡す事を要するが、それ以上に室内クリーニングを行って返還する義務はない。室内クリーニングは賃借人が貸室を賃借したときの状況、すなわち賃借人が使用する以前の状況に回復させるものであり、その費用を賃借人の負担とする特約は、通常使用による損耗の回復費用を賃借人の負担とすることに他ならない。また、室内クリーニングは、賃貸人が次に賃貸するための準備行為であり、その費用は賃貸人の負担となるべきであり、それは既に賃料に含まれているものである。

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■関西地方や九州地方の慣習である「敷引特約」については、その特約自体が消費者契約法10条により無効であるとの判断が多くなされておりましたが、最高裁判所ではその敷引金が高額である場合は無効であるが、そうでない場合は有効であるとの判断をしております。

平成22年(受)第676号 最高裁判所第3小法廷
平成23年7月12日判決

●入居者(被上告人)の主張
保証金100万円から60万円を差引く敷引特約は消費者契約法10条により無効である。

●貸主(上告人)の主張
本件敷引特約は、消費者契約法10条に違反せず有効である。

◎裁判所の判断
本件敷引金の額が賃料の3.5倍程度にとどまっており、敷引金の額も相場に比して高額であることもうかがわれないので、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。

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平成21年(受)第1679号 最高裁判所第1小法廷
平成23年3月24日判決

●入居者(上告人)の主張
保証金40万円から21万円を差引く敷引特約は消費者契約法10条により無効である。

●貸主(被上告人)の主張
本件敷引特約は、消費者契約法10条に違反せず有効である。

◎裁判所の判断
本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。

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■敷引特約無効

平成16年(ワ)第10347号 神戸地方裁判所第5民事部
平成17年7月14日判決

●入居者(控訴人)の主張
保証金30万円から25万円を差引く敷引特約は消費者契約法 10条により無効である。

●貸主(被控訴人)の主張
本件敷引特約は、消費者契約法10条に違反せず有効である。

◎裁判所の判断
本件敷引特約は、賃貸借契約に関する任意規定の適用による場合に比し、賃借人の義務を加重し、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるから、消費者契約法10条により無効である。

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■契約更新時に支払う更新料については、地方裁判所では「有効」「無効」と判断が分かれておりましたが、最高裁判所では更新料条項は消費者契約法10条には該当せず「有効」との判断がなされました。

平成22年(オ)第863号 最高裁判所第2小法廷
平成23年7月15日判決

●入居者(被上告人)の主張
更新料条項は消費者契約法10条又は借地借家法30条により無効である。

●貸主(上告人)の主張
本件更新料条項は、消費者契約法10条又は借地借家法30条に違反せず有効である。

◎裁判所の判断
賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎる等の特段の事情がない限り消費者契約法10条には当たらない。また、借地借家法30条にいう建物の賃借人に不利なものということもできない。

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■入居時に支払う礼金については以下の様に判断されております。

平成20年(レ)第4号 京都地方裁判所第2民事部
平成20年9月30日

●入居者(控訴人)の主張
礼金は何らの根拠もなく、何の対価でもなく、賃借人が一方的に支払を強要されている金員であるとみるほかないものであり、本件礼金約定は、消費者契約法10条により無効である。

●貸主(被控訴人)の主張
本件礼金約定は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとは言えず有効である。

◎裁判所の判断
本件礼金約定が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるような事情は認められないから、本件礼金約定が消費者契約法10条に反し無効であるとの主張は理由がない。

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